公正証書遺言は、公証人役場にて、遺言作成者が公証人に口述して、公証人が民法の規定をクリアした遺言書案を作成します。
そして、遺言作成者と証人2名の前で、公証人がその遺言書案を読み上げます。遺言作成者は内容に間違いがなければ「その通りです」と承認します。
遺言作成者は実印で、証人は認印でも構いませんが署名押印して遺言書が完成します。
公正証書遺言は、自筆証書遺言と比較して、作成に必要な費用が高くなりますが、「検認」手続きが不要なので、相続開始後、相続手続にすぐに取り掛かれるメリットがあります。
なお、検認手続は、家庭裁判所に申し立てるのですが、申し立ててから1ヶ月程度の期間が必要と言われています。
費用が高いことがあっても、公正証書遺言をお勧めします。
《公正証書遺言 のロードマップ》
「公正証書遺言」作成のロードマップです。
① 遺言書の文案を作成します。
※そのために、必要な準備があります。
・相続人を確定し、「相続人関係説明図」を作成します。
⇒出生から現在までのすべての戸籍を集める必要があります。
・また、不動産、預貯金等の財産を調査し、「財産目録」を作成します。
⇒不動産の記載は登記簿通りにしてください。情報は、法務局にて入手できます。預貯金は、通帳の表紙を一枚めくったページの、金融機関名、支店名、口座番号が記載されているページのコピーを取ってください。
これらの資料を基に、遺言書の文案を作成します。
② 地域の公証役場に行き、公証人に公正証書遺言の作成を申し込みます。
その時に、ご自分で作成した遺言書文案を提出します。
公証人は、その文案に副って、公正証書遺言案を作成します。
公証人とのやり取りで、公正証書遺言の内容が確定します。
③ 公証役場にて、遺言者と立会人の証人2名に対し、公証人が公正証書遺言を口述します。
口述後、遺言者が「間違いありません」と宣言します。そして、遺言者と証人2名と公証人が署名押印して、完了します。
押印は、遺言者は実印ですが、証人は実印以外でも構いません。
④ 原本は、公証役場で保管します。
また、正本と謄本の2通が遺言者に渡されますので、正本は、遺言執行者等に渡し、謄本は遺言者が保管すると良いでしょう。
公正証書遺言の作成について、私ども行政書士がお手伝いできますので、お気軽にご相談くださいませ。
遺言書があれば揉めなかったのに、の事例 《子の無い夫婦 編》
子供のいない一郎さんと陽子さんは、仲良し夫婦として評判でした。
しかし、一郎さんが 病を得て急に亡くなりました。
相続が始まると、陽子さんは大変につらい状況になってしまいました。
夫の一郎さんは、妹さんとの二人兄弟ですが、ご両親は亡くなっています。
そのため、一郎さんの相続人は、配偶者の陽子さんと兄弟姉妹の妹さん、の2人になりますが、その妹さんはすでにお亡くなりになっていました。
そこで、亡き妹さんの代襲相続人として、妹さんの2人のお子さん(つまり
一郎さんの二人の姪)が陽子さんと共に相続人になります。
ここで、相続人について、確認していきましょう。 《表を示す》
民法という法律で定める相続人を「法定相続人」と言います。
この「法定相続人」は、この表に記載の人に限られます。
第一に、夫または妻である「配偶者」は、常に相続人になります。
内縁関係の人や愛人は、どれほど被相続人の面倒をみたとしても法律的に相続人になれません。
次いで、血族相続人がいます。これには順番があります。
第一順位は、「子」または、その「子」が被相続人より早くなくなっている場合には、代襲相続人と呼ばれる「孫」などの直系卑属が相続人になります。
※「代襲相続」の意味は
本来相続人になる人が、すでに死亡していた場合に、その者の子が代わって相続すること。
※「直系」とは、ご先祖や子孫というような縦のつながり(養子も含む)のこと
※「卑属」とは、自分より下の世代を言います。
次に、第二順位は、父母または祖父母などの直系尊属です。
※「尊属」とは
自分よりも上の世代を言います。
そして、第三順位は、兄弟姉妹(なお、兄弟姉妹の場合は、代襲相続は子、つまり被相続人の甥・姪(おい・めい)まで。甥姪の子は含まれない)
さて、陽子さんは、先日、遺産分割協議を行いました。代襲相続人として2人の姪も参加しました。2人の姪は、法律通り、一郎おじさんの相続財産の3/4は配偶者の洋子さんに、そして姪の私たち二人が1/8ずつ、で計1/4を相続したいと言ったとのことでした。
これが問題です。一郎さんの財産の大半は、妻の陽子さんとの共有になっているマンションの所有権だからです。
姪たちの希望通りに、一郎さんの相続財産の1/4を渡すとすると、マンションの所有権の一部を渡すわけにはいかないので、それに変わる金額を代償金として用意しなければなりません。
しかし、陽子さんは、自身の老後資金のことを考えると、少しでも多くのお金は残したい、と思っています。
なお、亡き一郎さんの妹さんは、遠方に住んでいたため、陽子さんは亡き一郎さんの妹さんとの交流もそれほどありませんでした。
まして、その子供である姪たちには、彼女らが子供の頃に会ったことはあるものの、初対面と言っても良いくらいでした。
普段から交流があって、人間関係が築けている場合は、腹を割って、場合によっては、相続放棄をお願いすることもできたかもしれません。
また、兄弟姉妹には、遺留分がないので、一郎さんが「自分のすべての財産を妻の陽子さんに相続させる」と遺言書として残しておけば、一郎さんの全ての財産は陽子さんが相続できたのです。
陽子さんは「遺言書があったら、こんなことにならなかったのに」と強く思ったそうです。
子供のいないご夫婦に強く申し上げたいと思います。
「大切な配偶者を守るために、今すぐにお互いに遺言書を作ってください」