認知症というと、多くの人は認知症になった後に銀行や介護スタッフなどからの助言により申請する「法定後見」を頭に浮かべるのではないでしょうか。

実は成年後見には、2つの種類があります。

一つは、比較的知られているもので、本人が認知症になってから申請する「法定後見」です。

もう一つは、本人の判断能力があるうちに、自分の信頼する人と契約を結ぶ「任意後見契約」です。

「法定後見」は「民法」の規定によりますが、「任意後見契約」は「任意後見契約に関する法律」によるもので、全く別のものです。

近年、認知症の人が増加しています。2025年には高齢者の5人に一人、700万人が認知症になるとの予測があります。
高齢者の誰もが認知症になり得る時代になってきたと言えますね。
もちろん認知症にならないために、運動、栄養などに気をつけていくことは大切です。
しかし、認知症になっても自分らしく生きていくための対策をしておくことの方がさらに重要ではないでしょうか。

認知症になった後に申請する「法定後見」ですが、以下のような大きな問題があります。
1.家庭裁判所への成年後見選任手続きに、大変な時間、労力と費用がかかります。
2.本人のもっとも信頼するする人を後見人に推薦することは可能なのですが、実際の運用では、家庭裁判所が任命する後見人は、弁護士や司法書士のような専門職になることが大半です。さらに、その場合、本人が亡くなるまで毎月の報酬が発生することになります。

専門職の後見人は、家庭裁判所から任命されて、はじめて本人に会うことになりますので本人のことを良く知らないわけです。
当然と言えば当然ですが、専門職の後見人が本人の思いに添って後見活動を行うことは難しいですね。
そのため、本人および家族、親族など周囲の人が困ることが出てくるわけです。

では、他の選択はないのでしょうか。
そこで、私がお勧めするのが「任意後見契約」です。
この「任意後見契約」は、本人の判断能力低下した後はできません。本人の判断能力がしっかりしている時に、本人の最も信頼する人との間で結ぶ契約です。
「任意後見契約」には、以下の3つのタイプがあります。
1. 将来型
2. 移行型
3. 即効型

1番目の「将来型」は、本人に十分な判断能力がある時に、「任意後見契約」を結んでおいて、判断能力が低下した時は、家庭裁判所に申請し「任意後見監督人」が選任された時に「任意後見」が始まるものです。
この「将来型」の問題は、本人がフレイル状態になって自立が難しくなった場合でも、十分な判断能力がある間は、本人の財産管理の支援ができないことです。

そこで、本人の判断能力が低下する前に、本人からの委任を受けて財産管理の支援ができるようにするのが2番目の「移行型」です。
この「移行型」は、本人の判断能力が低下する前は、「財産管理委任契約」で本人を支援できます。
本人の判断能力が低下した時は、家庭裁判所に申請して「任意後見契約」に移行するものです。
この「移行型」は、認知症になる前から、認知症を発症した後も切れ目なく支援できますので、本人も周囲の人も安心できます。
このタイプは「財産管理委任契約」と「任意後見契約」を併せて、「委任及び任意後見契約公正証書」として作成するのが一般的です。

3番目は、「即効型」です。
このタイプは、まず「委任及び任意後見契約」を締結し、期間を置かずに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、「任意後見契約」を発効させるものです。

「法定後見」は、家庭裁判所が本人や周囲の人の意向と関わりなく後見人を任命することが多い、のに対し、「任意後見契約」は本人と本人が信頼する人との契約による(家庭裁判所が関わらない)ものなので、本人および周囲の人にとって使い勝手の良い、安心できる「成年後見」といえます。

しかし「任意後見契約」の認知度はまだまだ低く、利用する人も少ないのが現状です。
この機会に、『認知症になっても自分らしく生きていくための対策』である「任意後見契約」の利用をぜひ検討していただきたいと思います。

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